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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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【習作】鷹雛、後宮の催事にて歌を紡ぐ

 馬鹿げた理想を囀る唇でも、欺瞞と見栄に飾られた虚言を吐くより価値がある。


 ※倉庫保存していたものを習作↑
  ぶった切りなのでちゃんと続きます。





 
  鷹の雛と書いて鷹雛(ようすう)。
  後宮内でその名前を知らない者は殆どいない。勿論のこと、それは良い意味も悪い意味も含まれる。
  殿に仕える女官は試験を通ると先だってその名を口にするときの気遣いを先輩から教えられるし、後宮内を警護する神宮衛士も同様である。飛び交う思惑は様々であるが、理由は簡単。下手な場所で口にすると、今上帝や皇族府、ひいては護廷五臣将の長と呼ばわる海神家からさえ不興を買うから、である。
  雛と呼ばれるからには、親鳥がいたわけで。その親鳥は既に故人となってはいるが、未だに後宮の酒宴の肴になっている。
  曰く、『神宮を神宮と思わぬうつけ者であった』とか。
  曰く、『兄殺しの末に一族の長となり、その罪業故に天罰を喰らうたのだ』とか。
  今上帝や弘徽殿の女御などは声高に彼の人をそう評するが、彼の鷹は後宮の守役である青龍軍海神家将軍・海神龍牙と同じ盃を交わした義兄弟であり、軍位を剥奪されて尚、鷹雛は若年でいくつかの武勇伝を立ち上げながら海神家の恩恵を受けて禁軍に仕えている。
  つまり、後宮に務める者にとっては、下手に誉めれば高位の皇族から不興を買い、下手に罵れば軍権大家である海神から叱責を喰らうという、触らぬ神に祟りなしの存在であったのだ。

  そんな腫れ物のような存在が、初めて参内するとなれば、後宮内がざわめくのは必然の出来事であった。


  神在月。晴天。日差しは朗らかに、後宮の桜と紅葉は鮮やかに紅に染まる朝。斎宮殿にて。
  海神青玻は早くも本日通算十五回目となる溜め息を吐き出した。
 「鷹雛の大君が参内なさるからって、少し五月蝿いですよ、青玻。そんなに心配せずとも、とても良い日和ではないですか」
  呑気に、そして少しだけ楽しげに声を弾ませる主に、青玻は丸薬を白湯で飲み干しながら力強く首を振った。
 「良くないですよ! 馬鹿兄貴はもう一週間も前から『何があっても俺が守ってやるから安心していなさい。何があるかわからないから今日は家に泊まりなさい、決定』って猫可愛がりしてるし、龍彦は龍彦で本人には『初参内くらいで心を乱していては聖殿の顔が立たぬぞ』とか言ってるけど、あいつ、蓮くんが馬鹿にされたら絶対に影でブチ切れるだろうし、そうなったら彼に懐いてるあきらや蒼牙も何を言い出すことか……っ!」
  ああ、深く考えていたらまた胃痛が酷くなってきた。
  そもそもにしてあの若い鷹は、海神家に好かれ過ぎていると思う。これが彼の鷹雛の依存であったなら、青玻とて思い悩むことなく、『海神はお前の巣ではない』と切って捨てることが出来たのだろうに。残念なことにあの若い鷹は、いつでも自身の意志で立ち、自身の言葉を以て人を惹きつけてきた。笑うことは少なくなったが、人心を無碍にしたことはなく、身の上の不幸を言触らして同情を誘うこともしなかった。
  思い返せば、それは故人の鷹爪――武鎧聖とまったく同じ性質であったように思う。非道で粗暴な振る舞いが目立つ一方で、他人とは根っこの部分で繋がっていて、どんな理不尽や暴策であっても彼の部下たちは全身全霊で彼に応えていた。
  良くも悪くも鷹の雛そのもの。彼の中にも未だ見えない、そして常人の尺度では計り切れない何かがあるのだろう。末恐ろしいと思うと同時に、一粒、期待を持ってしまうのは、きっと青玻の中に流れる武人の血の所為だ。致し方が無い。
  主である雪音は、何やら深く思想に耽り出した守役を見て扇を開く。まったく何をそんなに考え込むことがあるのやら。首を傾げて、肝心なことを問いてみる。
 「それで、ご本人はどうしているの? あなたとの上覧試合のときなぞ、あんなに堂々としていたではないの」
 「不気味なくらい普通だよ。『俺が落ち着くより先に、御大将が落ち着いてください』って。後宮図を眺めながら、『古臭い殿舎図ですね』って。参内中に言っちゃ駄目だよ、って忠告する前に馬鹿兄貴に何かスイッチ入っちゃったみたいで『やっぱりお前は聖の息子だなぁ』って言われてすごく嫌そうな顔してた」
  あの静かな燃え滾る目で、彼は後宮図に何を見ていたのだろう。参内の手順と禁処の説明を受けてから、ぶつぶつと小さく口の中で呟いていた事柄は青玻の耳には届かなかった。それでも縮図を眺めるその瞳は、かつて軍事会合で策を披露していたあの目と寸分変わらぬように見えたのだ。

  
  鷹雛、後宮の催事にて歌を紡ぐ


『……もう一度、お聞かせ願えますやろか。時石はん』
  そう、かつて同胞であった月森靜女史に凄まれてから、幾つの季節を数えたのだろう。
 『私たちに、最早、鷹の為に出来ることは、ありません』
  そう答えを返して、薄化粧を纏った彼女の面が憤怒に染まったのを見たのはどれ程、前のことだろう。
 『むしろ、私たちが集っていては、駄目なのです。邸を焼いた間者が何者か判然としない今、そして上方に捜査を打ち切られた今、鷹である私たちが……いえ、鷹“であった”私たちが集って居れば、火の手は再び御子息に伸びかねません』
 『……だから、御子息のことは他家に任せ、自分たちは素知らぬ振りを貫け、と。そう言うのだな、時石』
 『……最早、私たちが御子息に出来る唯一の良策は、それだけです』
  たん、と扇が卓を叩く音が明瞭に響いた。平素は薙刀を振るう女史の御手が、怒りに叩きつけた扇は、けして安物ではないのにぱきり、と二つに折れてしまった。
 『時石はん。あんたは鷹爪の頭脳や。生まれは白虎禁軍に仕える武家やったな。それも一本槍の家系や。あんたはそんな家の中で本ばっかり、刀の腕はまあまあ。親兄弟、揃うてあんたを馬鹿にしはった。御大将はそんなあんたに目ぇつけて、鷹爪に入れはった。御子息はあんたを見て、何て言うた? 「時石は凄いんだな。俺にも書や兵法を教えてくれ」。随分、それに救われたと話しはったのはあんたやで?』
 『……』
 『浪崎はん。あんたかてそうや。奥方が倒れはって、せっかくの隊士の身分を捨てはるか否かいうあんたに声かけたんは御大将や。あんたが詰所で新兵扱いている間、奥方の世話焼いてくれはったんはどなたや。篠田の医療院を紹介してくれはったんはどなたや。蘭奥様と御子息や。あんた、なんぼ頭下げはってもええはずや』
 『……ああ、そうだ』
 『そうや。うちかてあんたらのことは言えへん。御大将に大事な身体やからと、たんと産休もらいながら、一番始めの子を流してしもた。何が起きたかわからへん。何でそうなったのかわからへん。腑抜けた案山子みとうなっとったうちを、蘭奥様はなんぼでも気遣ってくれはった。御子息はな、あの子、母親になれへんかったうちに言うた。「靜母さん」て言うた。それでうちはようやっと何が悲しゅうか解って、泣けたんや』
  詰める月森靜の言葉を、時石八束と浪崎光流は黙って聞いた。黙して聞くことしか出来なかった。
 『やのに、やのに、あんたは、あの子を見捨てろ言うんか! 確かに海神の大将も、天良の大花も、信用の置ける御方や。せやけど、そういう問題やないやろう!?』
 『月森さん』
 『うちらが御恩を賜ったんは大将だけやない! うちらがこうして居れるんは、』
 『月森さん!』
  彼女は正しかった。残された三人の隊士の中で、おそらくは、もっとも正しかった。ただ、その正しさがまかり通らないほど、世が歪んでいただけで。
 『私たちがこうして徒党を組んで居れば、上方は必ずや鷹の再起を疑います。そして目を、牙を向けられるのは、御子息の方です。未だ十を越したばかりの、御子息の方なのです……!』
 『……っ!』
 『確かに、あなたの仰られることはもっともです。ですが、あなたはせっかく授かった子宝を捨てて戦えますか? 浪崎さんに奥様を見捨てて戦えと言えますか? 私に家族を捨てろと仰られますか……!』
  靜は薄紅を乗せた唇を噛み締めた。彼女とて理解している。理解しているからこそ、許せないのだ。あるまじき世の理が。何も覆せぬ我が身の無力が。
 『時石殿』
  口を閉ざしていた光流が息を吐く。表情を凍らせて面を上げると、そこには頑として動かぬ鉄の隊士が凄んでいた。
 『……どうにも、ならぬのか』
 『どうにもなりませぬ』
 『そなたの頭を以てしてもか』
 『……それが、最上の策であるのです』
 『……あいわかった』
  呟きの後、洸流は卓の上にあった令状を畳んだ。そして深々と、剛腕と豪胆で知られた隊士とは思えぬ殊勝さで頭を下げた。
 『今日にて、我らは他人同士。時石殿、月森殿。……今日まで、誠、世話になり申した』
 鷹の翼を手折ったのは八束ではない。
 鷹の爪を砕いたのは八束ではない。
 しかし、あの日、鷹の息の根を止めたのは、確かに彼であったのだ。

 

 

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丸薬www

胃の薬ですねわかりますwww
蓮くんの初参内どうなるんでしょう……ドキドキ
パパまじパパwwwもちつけwww
蓮くんの新しい武勇伝楽しみにしてます(`・ω・´)
あ、雪音の口調なのですけれど「~わよ」は使わない感じでお願いします(・∀・)wktk
胃潰瘍気を付けてwww

何となく、青玻さん目線で書いてみたかったのですww
立場上、嫌われたり好かれたり忙しいので冷静に分析してみると後宮勤め大変だなー、とwww
副長になって妬んだ連中とか対立してる分家筋の奴らに襲われたら大変だもんねw ちなみに養家からも大げさに赤飯出されたりしているので本人は達観気味ですw

雪音っちの口調、了解しました(`・ω・´)ゞ
不安定な部分あるかと思いますので、随時突っ込んでやってください。
確かにwww

蓮くんは微妙な立場にいますよね……!
扱いづらいところがぷまい。

あとれーくん&私(笑)お誕生日おめでとう!
青玻さんの胃を気遣い隊

微妙な立場故に青玻さんの悩みの種になっていればいい。
そして悩みの種なのに真面目っ子だから、八重姐さんらは労わってくれないのに当人から労わられてさらに複雑になればぷまげふん(←)

見るときは一日遅れになっちゃってるかな?
お誕生日おめでとう!^^
今年も焦らず、ゆったりいきましょうね!
つ太田胃酸

それはぷまいwwww
多分一番心配してるの青玻ですよね。この微妙な感じがたまらんですな(゚∀゚)
さてはて鷹雛の君は宮中でなにをひき
おこすのやらwktk

ハピバありがとうございます(*´∀`)
昨日看護婦さんにも言って貰いましたけど、香月さんにお祝いしてもらうのは格別ですね(*´▽`*)
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