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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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【習作】烈火の華娘の花ひとひらの【序】

※ヒロちゃんと健ちゃんがまだ都にいた頃、ヒロちゃんが無理をして熱を出しました。
習作で書いてみますた。
藤娘の選定やら、例の元祖師弟のギャグ会話やら、もうちょっとだけ続くます。
沙音イメージソング Only Lonely Rain/茅原実里 歌詞→
 
  
 2014.4.23 ご指摘を受けて修正してみますた(`・ω・´) ヒロやん逞しく!
 石護りのエピソードは楽しそうなので”そして現在”のパートで小話で入れられたらいいな!w
  
 



 そっと襖を開く音に茫洋とした意識が浮上した。近づく気配に敵意はなく、むしろ馴染みのものだと知ると、ゆっくりと瞼を上げて、身体を起こそうとした。それを憚るようにその額にすっと三つ指が宛てられる。薄目を開いた先に見えたのは、深い海の色をした蒼だった。

「駄目だよ。まだ熱が下がってないんだから、しばらく横になっていないと」
「沙音」
 それでも乱雑にならないように、そっと乗せられた手を退けて、半身を起こす。
蒼色の双眸を持つ少女はふぅ、と溜め息を吐いて、しかし、再度は咎めずに枕を背に挟んで手伝ってくれた。「ヒロちゃん、本当、強情なんだから」と小さく唇を尖らせながら。
 ちゃぷん、と水の音がして、代わりにとばかりに清水に濡らされた手拭いを渡される。額に当てるとじくじくと熟れるような痛みを発していた頭が、幾分か楽になった。

 

 からからに乾いた喉の所為で、数度、空咳を漏らす。喉の不調に気がついた少女は、褥の傍らに膝をついてゆっくりと温い白湯を呑ませてくれる。痛む喉を白湯で潤している間に、幼馴染の少女は龍浩が訊ねようとしていた疑問に答えてくれる。

「おじ様から聞いたよ。東国への遷邸と仕事で無理し過ぎて熱出した、って。あ、お仕事は今、おば様が代わりをしてくださっているし、少し前まで健(たけ)ちゃんが看ててくれたんだけど……健ちゃんにもずっと無理させるわけにいかないから、私が交代」

 ゆっくりと視線と回してみると、既に帳が落ちかけていて、柔らかな行灯の光がまだあどけない少女の笑顔を照らしていた。

 綺麗に結い上げられた、夕焼けの色をそのまま映した長い髪。意志の強そうな瞳は姉妹そっくりで、四粒の宝石のようだと謳われた。だが、龍浩から見ればその色は若干ばかり違う。姉が澄み切った蒼穹を映すなら、妹の彼女はその蒼穹を鏡にした海の碧だ。時折、ほのかに撫子の色に染まる健康的な白い頬も、滅多に仕事をしない姉のそれと比べて、まろやかで柔らかそうに見える。

 常日頃から、何かと姉と自分とを比べ、「お姉ちゃんには敵わないよ」と自分の方を卑下している少女であるが、そもそも双子だからと比べることが過ちであると龍浩は思う。姉は豪胆な振る舞いで年上の男さえ圧倒させるかもしれないが、彼女は実に丁寧で優しい声音と所作で他人を癒す。彼女に千人を打ち倒す姉の手腕はないかもしれないが、姉には繊細で彩も豊かな彼女の料理を作る指先はないだろう。

 龍浩も、あの姉自身も、「比べられるような存在ではない」と切々、説いているというのに。

「ヒロちゃん、お腹、空いてない? 薬の前に少しだけでもいいから、食べられるといいんだけど……」

 幼い頃からの呼び名は実に子どもっぽく、軽い響きでどうにもくすぐったい。だが、少しも棘の無い鈴のような声で口にされると、つい、訂正をせずに終わってしまうのは、彼女がただ純粋に見栄も揶揄もなく龍浩を呼んでいるからなのだろう。

 かちゃり、と出された盆の上から薄い出汁の香りが龍浩の鼻を掠めた。食べる、と頷くと盆の上の小鍋を開いて湯気の立つ粥を茶碗によそってくれる。こんな気遣いからして、あのやたらに尊大な姉とは違うのに、と思ってしまう。

 小鍋から茶碗に取り分けられた白粥から、鰹節の香ばしさとゴマと生姜の風味が立ち上る。先程までひたすらだるさを訴えていた胃が、急に空腹を訴えて来た。一口、口をつければこちらの病態に合わせてくれたのだろう、控えめに味のつけられた粥に食いついていた。その様子に安堵したらしい彼女は、今度は丁寧に湯を冷ましながら茶を淹れてくれる。

「……沙音は飛鷹の華室(はなむろ)さまに似て、良い嫁になるだろうな」

 ふと、思いついて漏らしてみると、彼女は虚をつかれたように海の双眸を丸くした。そして何故か困ったような顔をして、その顔のまま笑って「そうなら嬉しいなぁ」と龍浩の言葉を受け取った。

 最後の一口を食べ終えて、東国へ遷ればこの粥もしばらくは食えなくなるのか、と気がついた。母の焼く甘い卵焼きが好きだ。栞の誂える上品な煮しめが好きだった。この優しい幼馴染が作る身体に染み入るような味の粥や菓子も好きだった。それが離れてしまうのが、それから離れてしまうのが、少しばかり寂しい。

「ヒロちゃん、ちょっとごめんね」

 急な謝罪に何事かと目を向けようとすると、白い指先が額に伸びて来た。武芸を嗜み、率先して水仕事をやる所為で同い年の女子よりも少しばかり肉刺で固くなっている。だが、芸事の為に爪は丁寧に整えられている。何事にも懸命な彼女の性格をそのまま映したような手が、とても綺麗に見えた。その途端。

 くらり、と眩暈がした。胃が満たされて、身体が温まった所為だろうか。仕事に精を出そうとして、家族ばかりか、他家の幼馴染にまで手間をかけさせてしまった。

「……やっぱりまだちょっと熱いね。円先生からお薬貰ってるから、これ飲んで、今日は寝ちゃおう」

 手を離して、彼女は再び白湯を作り始める。適量に分けられる粉薬をぼんやりと眺めながら、ちゃり、と手の中に落ちて来た固い感触に首を傾げた。目線を落とすと、川辺で拾った綺麗な石に、昔、手ずから飾り紐を通した石護りが袖から落ちていた。

 川辺で見つけた小石がとても綺麗だったから。市井で見かけた緋色の飾り紐がとても美しかったから。何となく覚えたての結び護りを作ってみて、まだ小さかった手で作ったにしてはよくよく出来たと思ったので、それから今日まで身に着けていたものだ。時には首から提げて、大人になってからは刀に括って。

「……もう少しで、居なくなっちゃうんだね。ヒロちゃんも、健ちゃんも」

 そう呟いた少女を見て、不意に思う。沙音。沙羅双樹。故郷の名を冠した花の名を賜った幼馴染の名前。その沙羅双樹の花に付けられた意味を思い出したのは偶然だった。愛らしいが同じ種の花には珍しい落葉樹で、摘んでしまえば長く持たない。夏の朝に咲けば夕方には散ってしまう、潔くも儚い花。『愛らしさ』、そして『はかない美しさ』。

「ヒロちゃん?」

「……これを」

 気づけばきょとんとする幼馴染の前に、石護りを差し出していた。石の護りに託されるのは、意志、そして石のように強固である祈りだ。そう考えるとこの石護りは彼女の手にあるのがぴったりである気がした。

 彼女は数度、目を瞬かせると、何故か受け取ろうとして、躊躇って、を繰り返した。しかし、もう一度強く龍浩が手を差し出すと、意を決したように両手で小さな石護りを包み込んで可憐な沙羅双樹のように微笑んだ。

「ありがとう、ヒロちゃん。私、大事にするね」

 まだあどけなくも幼い、子どもであった頃の話である。




 
 
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タイムリーなことに

自分も熱出してぶっ倒れた小春です。ヒロやん移したなテメェしゃのちゃに看病してほしいです……。

さてさて。ひろやんを書いてくださってありがとうございます! で、いくつかお願いがちらほら。
・ひろやんが東国に下るのは15らへんなのとあの性格のために、舌っ足らずは無理があるかと(>_<)がーちゃの専売特許ということでお願いします。
・ひろやんは親父に似て寝てるところは他人に絶対見せません。風邪引いてるとき寝込んでも、人が来たら必ず起きます。情事後とかぶっ倒れて意識ないときはしょうがないですが。多分しゃのちゃに気付いたらどんなしんどくても起きあがると思います。
・石護りについて。龍浩は10歳の時失恋して15になった頃は完全に吹っ切れてると思うのです。それに女の子にあげるものを、別の誰かに代わりにあげようとするような性格じゃありません。そこは徹底しています。だから、石護りは折角作ってみたんだし母上(あきら)にでも使って貰うか、と適当に考えたら、たつやんが「(゚言゚)」ってなったので、親父めんどくせーし上手くできた装飾品なのだから自分で使ってしまおう。結構いい感じじゃん。気に入ったぜ。気に入っていつも身に着けてたから、なんとなくしゃのちゃに持ってて欲しい……な感じに変えるとか、はどうでしょう?
なんかいっぱい注文つけてごめんなさい(´・ω・`)
了解であります!(`・ω・´)

あわわ、大丈夫ですか?
しゃのちゃに変わってお大事に(´・ω・`)つタオル

・舌足らず→普段からではなく、口の中からからでしゃがれた声が出た――なイメージだったのですが、がーちゃの専売特許ならば空咳で治してもらいましょう。奪っちゃあかん(`・ω・´)
・寝てるところ→了解であります。ちょうど起き上がるときにしゃのちゃに来てもらいます。
・石護りについて→この設定は自分でもヒロちゃんそんなやるべーか…?と思いながらとりあえず書いてみた、な感じだったのではっきりご意見頂けて良かったです!(`・ω・´) 代替案ありがとうございます。親父めんどくせー、たつやんェwww
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