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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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【みならいおんみょーじ!】詰め合わせ いち!~さん!

 武道を極めた両親に憧れた霊感少女が陰陽師を目指して修行中! だが、特技は妖怪たちと仲良くなることだけだった! お父さんにもらったぬいぐるみ”ぴょんたん”に宿った式神と一緒に今日も一大スペクタクルでも何でもない修行(コント)が始まった!

「コントじゃないよ!?」
『正直、ダメッダメな陰陽師の日常なんぞわくわくでもなんでもないぴょん』

 ※小説? いえ、5分間アニメシナリオっぽいもどきのような何かです。

 
 イメージ(詐欺)OP→「chocolate insomnia」/堀江由衣
 イメージ(詐欺)ED→「your song*」/yun*chi






 早起きした朝の空気はとても冷たく感じる。
 しん、と静まり返った庭の真ん中。さわさわと小枝のさえずる声だけが絶え間なく聞こえてくる。開いた瞼の真正面。人に見立てたカカシがまっすぐ立ってこっちを見ている。目がないから、そんな気がするだけだけど。
 今日こそは。
 こくり、と溜まっていた唾を飲んで、ぎゅっと汗ばんだ手のひらの中の木刀を握り締めて。目はしっかり正面を見て。体勢は低くして。ざっ、と草履で地面を蹴ってカカシに向かって駆け出して。
「ふきゃあああああっ!」
 目の前が真っ暗になる前に見えたのは、とっても固そうな石畳でした。

【みならいおんみょーじ! いち!】

「いったたたぁ……」
 またやっちゃった。
 じんじん痛むおでこを抑えて顔を上げると、手元から吹っ飛んで茂みに刺さっている木刀が見えました。どうやらまだ石畳の隙間に足を引っかけて転んでしまったようです。これで何回目だっけ。数えるのも嫌になって、座り込みます。我ながらもう溜め息しか出ません。
 ずずー、って呑気そうにお茶を啜る音に振り返ると、縁側にふっかふかの座布団を敷いて座ってるウサギさんがいました。ぬいぐるみなんですけど。そのぬいぐるみさんはやおらこっちを見て、首をゆるゆる振ります。
『毎朝、毎朝、そんなに石畳と接吻ばっかりして、沙音の石畳フェチにも困ったものぴょん』
「ちがうよ?! 石畳フェチって何!?」
『この光沢がそんじょそこらのコンクリとは比べらんないよね。この硬さで私を受け止めてくれる包容力が魅力だよね。とかそういう感じじゃないかぴょん?』
「ちがうよ! 好きで転んでるわけじゃないし、痛いの嫌いだし、っていうか感じじゃないかってすっごく適当だよね!?」
 白いふわっふわの生地に、綺麗な青い目をしたウサギさんから飛び出すのは今日も辛口です。っていうか、よくわかんないです。
「ううう、ぴょんたんも式神ならたまには慰めてよー。これをやれ、って言ったのぴょんたんなのに!」
『正直、ここまでヒドイとは思わんかった。ぴょん』
「傷つく! っていうか、今キャラぶれてたよね!」
『ま、一丁前なことを言うのはせめて半人前くらいになって、私を調伏してから言うことぴょん』
「そ、それは……」
『分かったらさっさと木刀を取りに行って来るぴょん。得物を手離すとか、ひよっこだからとか言い訳にもならないぴょん』
 そう言ってぴょんたんは短い前足(?)で、ぴしっと茂みに突き刺さった私の得物を指しました。正論だけに言い返せません。ぐすん。
 私は天武沙音。10歳になりました。お空の天に、武道の武。さんずいに少し、それに音で沙音と読みます。お父さんはとても有名な剣術流派の有段者かつ実家の師範代で、お母さんは黒帯で剣道七段でお父さんの補佐をしています。お祖母さまは星詠みや風詠みも出来ちゃう占い師。昔は、陰陽師も兼ねていたそうです。
 小さい頃からひいお祖母さまのお話を聞いて育った私は、7歳の頃、ひいお祖母さまみたいな陰陽師になりたいと一念発起。元々、幽霊や妖怪さんといった視えないモノが視えていた私はそんな夢のために、現在、修行の真っ只中です。
 座布団に座っているぬいぐるみは私の式神。名前は教えてくれないので、あだ名ですが“ぴょんたん”と呼んでいます。5歳の誕生日にお父さんがプレゼントしてくれたウサギさんのぬいぐるみで、私のパートナーです。見た目はぬいぐるみですが、本人曰く、千年以上生きているとてもえらい神様なのだそうです。
 本当なら、陰陽師は“神降ろし”とか“調伏”とか、とても立派な儀式をして式神を使うそうなのですが、ぴょんたんは何故か私の傍にいてくれます。曰く、“神サマの気紛れ”というやつで、その証拠にぜんぜん、私の言うことなんて聞いてくれません。
 でも、こうやってダメダメな私の修行に付き合ってくれているところとか、ちゃんとした他の陰陽師さんや退魔師さんのところに行かないで私を見捨てないところとか、ホントは優しいんだなと思います。
「沙音? どうした? また転んだのか?」
「ふぇっ!?」
 ようやく茂みから抜け出して来たら、ぴょんたんの後ろ、頭の上から優しそうな男の人の声が降ってきました。ふぁあ、と顔に血が集まるのがわかります。
 ちゃんと見上げないといけないのですが、そうしたら顔が赤いのがバレてしまいます。それに私、今、おでこ擦り剥いてるし葉っぱと泥だらけだし。はわわ。パニックになっているうちに剣だこがいっぱいで、硬いけど、優しい手が痛いところを撫でてくれます。はわわわっ。
「あ、あのっ、だ、だいじょうぶですっ、いつものことだしっ! それより、お、お庭散らかしちゃってごめんなさい、すぐ片付けますっ!」
「いや、そんな急がなくていい。というか、怪我をしているだろう。女子が顔に傷を残すものじゃない。救急箱を持ってくるからじっとしていなさい」
「は、はい……」
 その人が背を向けて私はやっと顔を上げられた。ちらっと見えた横顔はきりっとして、格好良くて、さらりと揺れる黒髪は羨ましいくらい綺麗で、居住まいも背中も頼もしくて大きくて。それに何より私に向けてくれる目がとても優しい。初めて見たときはこんな綺麗な男の人って存在するんだ、と思ったらとくん、て胸がときめいていた。お母さんが言っていた、恋は理屈や年齢じゃない、ってそのとき初めて理解した。
 救急箱を取りに行った男の人の名前は東鬼龍浩さん。私の従兄弟で、下宿先の御当主さまの長男で、私の初恋の人です。はわわー……。
『………………………ま、妻帯者だけどぴょん』
 あう。
「心の声にまでツッコまないでよ! そんなのわかってるよ、夢くらい見させてよ!」
『既婚で15歳年上の男を不倫で寝取りたいとか、最近の小学生はませてるにも程があるっつーか、爛れてるっつーか、嘆かわしいぴょん』
「そんなところまで夢見てないよ! 初恋は叶わなくても自由だもん! っていうか、うちのお父さんとお母さんは歳の差婚だったもん! 」
『叶わないものにしがみついてないで、沙音はいい加減、男も将来も現実を見た方がいいぴょんよ』
「龍浩さんは現実の男の人だよ二次元とかじゃないよ! っていうか私10歳だよ、ふつう大きな夢を見なさいって年頃じゃないの!?」
 初恋の人に優しく撫でられた場所に触れて、ちょっとドキドキしてたらすぐこれです。前言撤回。ぴょんたんはホントに意地悪です。言っておくと、私は龍浩さんの奥さんも大好きです。とってもお世話になっているし、美人で優しいお姉さんみたいな人です。それはちょっぴり羨ましいなぁとは思うこともあるけれど、でも2人が幸せそうだと私も嬉しくなるから、横取りなんてちっとも考えたことありません。念のため。
「それに、将来についてはお祖母さまから才能はじゅーぶん、っておすみつきもらったもん!」
 これは本当のこと。私は何故だか生まれながらにして、何となく先のことが分かったり、誰にも見えない浮遊霊さんとか妖怪さんとかが視えたりしました。ちょっと寄り道して帰った日に限っていつもの通学路に変質者が出たり、鳥さんや猫さんの声が聞こえたり。
 懸命に主張してみるけれど、ぴょんたんはまた淡々と湯呑みを傾けてこっちを見ます。
『確かに今時ウサギプリントのパンツ履いてすっ転んでパンチラどころかパンモロしてる沙音は、画面の前の「まったく、小学生は最高だぜ!」とか言ってる輩を喜ばせる才能は天才的ぴょんが』
「何それ何の才能!? ぴょんたんの方がよっぽどただれてる気がするよ?!」
 本当に何でぴょんたんは私のところにいるんだろう……。嫌われてるとは思わないけど、スパルタが酷いです。お父さん、お母さん。修行には挫けないけど、式神の毒舌にはちょっと挫けそうです。
『真面目な話、才能ってヤツは生かすも殺すもそいつの問題ぴょん。将来がどうなるかは沙音の努力次第であって、才能があればいいってもんじゃないぴょん。陰陽師の世界はそんなに甘くないぴょん』
「ううっ……」
『最下層の地縛霊相手に同情して、道端で幽霊相手に3時間も人生相談(笑)してた結果、近所のおばさんたちに「あの子、大丈夫かしら?」ってヒソヒソ話をされて、お巡りさんに保護されるような陰陽師はさすがに私も会ったことないぴょん』
「だってあの人可哀想だったんだもん! お仕事で毎日3時間しか眠れなくてふらふらしてたら事故に遭って死んじゃった、なんてあんまりだったんだもん! っていうかおばさんたちのことは気づいてたなら教えてよ!」
『それだと沙音に補導歴がつかなくなるぴょん』
「つけなくていいよ!!」
 拝啓、お父さん、お母さん。憧れの陰陽師への道はまだまだ前途多難みたいです。あうう。

                                                                               続く!


【次回予告】
「そういえば今さらだけど、ぴょんたんてオスなの? メスなの?」
『ホントに今さらぴょんね。ま、メスという設定にしておけばいいぴょん』
「設定って何?!」
『じゃないとお風呂シーンやおやすみシーンでまーた「淫獣、淫獣」騒ぐ連中が』
「発言がメタいよ、ぴょんたん!!」
『次回、「みならいおんみょーじ、しゅぎょうする。」読みたい人は読めばいいんじゃないぴょん』
「やる気なし!?」





「はあっ、はあっ、はあっ……」
 心臓の鼓動はどくどくと早くなって、息は自分でもわかるくらいに荒くなっているのが分かる。鏡はないけどきっと顔は真っ赤で、するりと汗が頬と首筋を伝っていく。少しだけ気持ち悪かったけど、止められない。
「はあ、はあ、はっ、はっ、あ……」
 自然と呼吸のスパンは短くなって、身体はどんどん火照ってくる。くらくらする眩暈に耐えて、小さく声が漏れてしまって。
 ぴぴぴーっ!
『はいご近所周回マラソン13周ー、あと7周がんばぴょん』
「はうあうあううううーっ!」
 ホイッスルを咥えて玄関先で待機するウサギさんは、ジャージ姿でへたり込む私に冷たくそう言い放ったのでした。

【みならいおんみょーじ! に!】
~みならいおんみょーじ、しゅぎょうする~

「ううう、せめてお水くらい飲ませてよ。干上がっちゃうよー」
 私の切なる訴えに、ウサギさんは深々と溜め息を吐きます。そんなに大きく吐かなくても。ううう。
『まったく沙音は仕方ないぴょん。たかがご近所のジョキングでひいひい言っちゃ先が思いやられるぴょん』
「ご近所でも20周もしたらバテちゃうよ! ふつうだよ! それにラジオ体操のあとにマラソンてどういうことなの?!」
 ジャージの長袖を引っ張って少しでもあったかくします。ちなみに上はたいいくのジャージですが、下は制服のプリーツスカートです。本当は上下ジャージに着替えようとしたのだけれど、何故か『小学生のアイデンティティだろうが視聴率舐めんなぴょん!』と言われてそのままです。今日もぴょんたんの言うことはよくわかりません。
 私の名前は天武沙音。立派な陰陽師を目指して絶賛修行中の10歳です。もちろん、ちゃんと小学校にも通っています。得意科目は国語、苦手科目は算数です。
 ぬいぐるみの手でかちかちとストップウォッチを押しているのは(ぬいぐるみの手のはずなんだけど、どうやってるんだろう)私の式神。パートナーのぴょんたんです。見た目はぬいぐるみですが、とてもえらい神様だそうなのでまだ調伏も何も出来ずにいます。なので私にとってぴょんたんは式神(保留)みたいな感じです。
 千歳以上のぴょんたんは式神兼まだまた見習いの私のコーチでもあります。6時に叩き起こされたと思ったら、ラジオ体操1と2をやらされて、いつのまにかマラソン大会になってました。……正直、どうしてこうなったのかよくわかっていないです。
 ぴょんたんが用意してくれていたポカ〇(とってもぬるいです……)をこくこく飲んで、ようやくほっと一息。苦しかった心臓も段々落ち着いて来ました。
「ねえ、ぴょんたん。これ、本当に陰陽師の修行に必要なことなの?」
 とにかく息を整える時間が欲しくて訊いてみます。ぴょんたんはそんな私の質問にぎゅう、と眉間にしわを寄せて、
『ま、何だ。今の沙音に足りないのは一に体力、二に体力、三に体力、四に体力、五に体力ぴょん』
「体力しか言ってないよ?!」
『ちなみに六は色気ぴょん』
「それは絶対今関係ないよね!?」
 ちなみに私はまだ10歳です。それは同級生には本当に小学生? って感じの子もいたりはするけれど、色気なんて出るはずもないです。無茶ぶりです。
 まあ、でもぴょんたんがよ無茶な話の振り方をしてくるのはいつものことなので、それはともかくとして。
 夢の陰陽師。お札を作ったり、占いをしたり、儀式で舞を披露したり、難しい術を使って妖怪を封じたり。お祖母さまに聞いたお話の陰陽師と、ラジオ体操とマラソンのセットがどうしても結びつきません。確かに私のお父さんは昔、陸上をやっていたそうだけれどやっぱり結びつきません。
 ぴょんたんは綺麗な青い目で呆れたように私を見上げます。
『技術以前に得物がすっぽ抜けるなんて、武器を振り回してるんじゃなく、武器に振り回されてるんだぴょん。最低限、木刀くらい素振る体力と腕力がないとお話にならんぴょん』
「そ、それはそうかもだけど陰陽師って頭脳派っていうか……。ほら、妖怪の種類や弱点を学んでそこを突く、っていう感じじゃないの……?」
『うーん。それも定石といえば定石ぴょんが』
 ぴょんたんはこてん、と首を傾げて毛づくろい(?)をしながら、含めるように続けます。
『動物も人間も進化する生き物ぴょん。それは陰陽師や退魔師の討伐対象になる妖怪や魔物だって同じぴょん。判明してる弱点を百年も二百年もそのまま放置するヤツは余程のバカか、元から知性や自我がない連中くらいなんだぴょん』
「えっと、つまり妖怪や魔物だって学習して強くなる、ってこと?」
『その通りだぴょん。弱点を庇う方法を身につけたり、人間の術を学んだり。骨があるヤツなら弱点自体を克服したりするんだぴょん。その度に陰陽師や退魔師は新しい退治方法を考えるんだぴょん』
「ほぇえ……何か、思った以上に難しそう……」
『例えるならピッキング技術を日々上達させていく空き巣と防犯警備会社のいたちごっこみたいなものぴょん』
「何か解るけど嫌な例え方だね、それ……」
『じゃあ、序盤はちゃんと強敵の意表をついたり、ライバルと共闘したりして地道に戦っていたにも関わらず、世界ナントカ大会編みたいな段階に到達すると敵も味方もパワーインフレ起きて純粋な殴り合いで終わる少年漫画の』
「そういうのいろいろマズイからやめて!!」
 ぴょんたんて本当に千歳以上の神様なんだろうか。何か妙に世情に詳しい神様な感じがする。お世話になってる東鬼の一番上の叔父様は、最近、やっと一人でスマホが使えるようになった、って一番下の叔父様が感動してたのに。
 ぬいぐるみなのにストップウォッチを使いこなして、ぬいぐるみなのに何故かホイッスルが吹けるぴょんたんは、いつものように腕組みをします。
『ま、ともかく先に知識だけを突っ込んだところで、頭でっかちの応用が利かないマニュアル人間になるのがオチってことぴょん。浮遊霊如きにひいひい言ってる沙音が机で勉強したところで、通信空手しか習ってないくせに試合を見始めると的外れなバッシングする知ったか乙みたいになるだけぴょん』
「解りやすいけどそういう心にくる例え方やめてよ!!」
 お父さん、お母さん。今日もぴょんたんはスパルタ全開です。大盤振る舞いです。身体もへとへとですが、心もちょっと萎れています。
『そういう訳だから地道に励むぴょん。母親の手作り菓子が美味しいからって、食べ過ぎた贅肉を筋肉に変えるがいいぴょん』
「そ、そこまで太ってないもん! 秋の身体測定、1キロしか違わなかったもん!」
 育ち盛りだし、大体、お母さんの作るお菓子がおいしいのがいけないんだ! ……そういえば最近、お母さんのアップルパイ食べてないなぁ……。はう、いけないいけない。こういうのがいけないんだよね、きっと。って、あれ?
「あれ? そういえばぴょんたんて、大昔は普通の人間だったんだよね?」
『そうだぴょん。それはそれは珠のように可愛らしい子どもだったぴょん』
「それ自分で言っちゃうんだ?! じゃあ、ぴょんたんも私くらいのときはこんな修行したりしてたの?」
 私の質問にぴょんたんはぴくっと耳を動かした。組んでいた前足をほっぺたに当てて、首をひねって思い出すような素振りをして、
『あー……母親の菓子食って寝てた』
「説得力!!」
『黙らっしゃい!!』
「はうっ!」
 後ろ足でべしり、と顔を叩かれました。ふかふかのぬいぐるみなのに地味に痛いです。5歳の頃からの付き合いだけど、どうなってるんだろうあの後ろ足。家庭内暴力はDVだけど、主従間暴力って何て言うのかな。
『確かに跳び箱をすれば箱を飛び越えずに箱に突っ込んでいく沙音には、厳しいことを言っているかもしれないぴょんが』
「それ今言うことじゃないよ! 恥ずかしいからやめて!!」
『でも、それを言うのはぴょんたんの役目なんだぴょん。実際に妖怪や魔物と出くわしたら、ぴょんたんはこの身体が裂けても千切れても死なないぴょんが、沙音の命はひとつしかないんだぴょん……!』
「え」
『実戦でもしものことがあったらと思うと、ついつい厳しくなるものなのぴょん。……そんなもしもが沙音に起こるくらいなら、嫌われても恨まれても訓練をびしばしやった方が数倍マシだぴょん』
「ぴょんたん……」
 ぴょんたんの青い瞳が、とても真剣に私を見てくれています。ぬいぐるみだからプラスチックなんだけど、とても力が込められているのはわかります。曲がりなりにもパートナーですから。
 ぴょんたんはとても強い神様で、私は低級霊も調伏できない見習いなのに、ずっとそばにいてくれてるんだ。
 ぴょんたんがそんなことを考えてくれてたなんて思いませんでした。なのに、私は弱音ばっかりぴょんたんにぶつけて、迷惑ばっかりかけて……。
 きゅ、と唇を噛み締めて立ち上がりました。足はとってもだるいし、慣れないジョギングで心臓はまだちょっとうるさいです。でも。
「ぴょんたん! 私、がんばる! がんばって、一日でも早くぴょんたんの主に相応しい陰陽師になるよ!」
『あー、その意気だぴょん。ふぁいとだぴょん』
「うん! じゃあ、14周目行って来るね!」
 ぴょんたんも応援してくれてるんだ。偉大な神様が頑張れ、って言ってるんだもん。応えなきゃ陰陽師の卵として失格だよね! 決意を新たに朝の空気を吸い込んで、よしっ!
「よーし、がんばるぞー!」


 へたり込んでいた沙音が再び元気に走り去っていったそのあとで、
『……自分でやっといて難だぴょんが……あの騙しやすさであの子大丈夫かぴょん』
 と呟いていたウサギがいたとかいなかったとか。

                                                                               続く!


【次回予告】
『最近の美少女アニメには健全さが足りないと思うぴょん』
「え、何? いきなりどうしたの、ぴょんたん?」
『セで始まりスで終わる言葉といえば!』
「え、せ、扇子? セールス? あ、セルフサービス!」
『画面の前のそこのお前、猛省したか!』
「読者さんに何言ってるの!?」
『次回、「みならいおんみょーじとうらないのはなし」。暇ならどうぞぴょん』





「えっと、これはこうして……うん、こうやって……」
 お家を出て下宿をする条件のひとつには、成績を落としちゃいけないというものがあります。元々、そんなにいい成績でもないのでさすがに何も言えません。お父さんは運動も勉強も何でも出来る学校の先生なのに、何で私には遺伝してくれなかったのかなぁ。世の中は不公平です。
 でも、お父さんは自分が先生なんだから成績を上げなさいと叱る人ではないから沙音はいい方だ、とぴょんたんは言います。お父さんやお母さんが立派すぎる子どもにはそういうことがよくあるそうです。そんなことを考えると私って甘やかしてもらってるんだなぁ、とつくづく思ってしまいます。
「ぴょんたん、千歳なら歴史とかはばっちりでしょ? 教えてくれればいいのに」
『小学生が習う歴史なんて、後世の人間が図式化した学問だぴょん。私が知っているものとはかけ離れているぴょん。それに』
「それに?」
『それだと沙音のドリルにことごとくバツ印をつける楽しみが減るぴょん』
「そんなの楽しみにしないでよ!」

【みならいおんみょーじ! さん!】
~みならいおんみょーじとうらないのはなし~

「あうう、ぴょんたんのせいで変な線書いちゃったじゃない……」
 座布団でおまんじゅうを頬張るぴょんたん(ぬいぐるみなのにどこに入っていくんだろう)にツッコミを入れていたら、ノートの上にみみずみたいな線が出来ていました。消しゴム、消しゴムと。
 ――あ。
「……えへへ」
『何で間違えたところを消すのにそんなににやにやしてるぴょん。ドM?』
「ちがうよ! 何か可哀想な人を見る目しないでよ、もーっ! ……あのね、学校で友だちに聞いたんだけど」
『え゛』
「え?」
 とさり、と座布団の上におまんじゅうが落ちました。ぴょんたんが食べ物を落とすなんて珍しいです。というか、見たことがありません。何故だかショックを受けたような表情をしています。ぬいぐるみだけど。そんなにおかしなこと言ったかなぁ?
『沙音、学校に友だちなんていたのかぴょん?』
「直接的な罵倒! いるよ、友だちくらい!!」
『他の人には聞こえないし見えないと分かっているのに、地縛霊や小動物、果てはぬいぐるみ相手におしゃべりしちゃう不思議ちゃん(イタイ子)と関わる一般人がいるとは思わなかったぴょん』
「( )の中!! ひどいよ、それはちょっと沙音ちゃんて天然だよね、とは言われるけど……」
『ちょっと、だと……?!』
「驚きすぎだよ、傷つく!!」
 珍しいと思ったらこれです。ぴょんたんはぴょんたんでした。何事もなかったかのように落としたおまんじゅうもしっかり完食するところもいつも通りです。ハムスターみたいに(ウサギだけど)両頬を膨らませてもぐもぐした後、けぷり、とげっぷをひとつ。
『沙音のぼっち生活はさておき。で、何でにやにやしていたんだぴょん』
「だからぼっちじゃないってば。あのね、友だちに聞いたんだけど、“消しゴムに好きな人の名前を書いて、誰にも気づかれずに使い切ると両想いになれる”っていうおまじないがあってね、それ、やってみてるところなんだぁ」
『ふーん』
 あれ、ぴょんたんの目が死んでます。何か目が「大丈夫か、コイツ」って目になってます。
『で、その気がつかれずに、というのは私が気づいた場合はどうなるのぴょん?』
 ………………あ。
「ぴょんたんの馬鹿あああぁぁぁっ! おまじない、失敗しちゃったよぉっ!!」
『いやー、今のは純粋に鮮やかすぎる自爆だったぴょん……』
 おまじないが解けてしまった消しゴムを握って、ぴょんたんをにらみます。少しくらいは慰めが欲しいです。ですが、ぴょんたんはいつもの表情でぽん、と私の肩に前足を置いて、
『ま、気を落とすなぴょん。沙音の恋なんて、消しゴムを使い切って叶うというより、どっちかと言えば消しカスと一緒にゴミ箱に散る感じの方だぴょん』
「たかがおまじないにこの言い様!」
 小学生のおまじないひとつなのにぴょんたんは辛辣コメントです。ううう。正論だけに何も言い返せないのがつらいです。うん、まあ、確かにこれで願い事が叶うって本気で信じてたわけじゃないけど。でもちょっと切ないです。うー……あ。
「そういえば」
『何だぴょん?』
「おまじないって、他にはどんなのがあるのかな?」
 閑話休題。お勉強は休憩。スマートフォン起動。
「うわぁ。何かいっぱいあるんだね」
 “おまじない 恋愛”と打ち込んだだけでそこにはずらりと並ぶサイトの数々。「これで駄目なら諦めろ!」とか「究極の恋のおまじないで潜在意識を変えてみよう!」とか、何だかちょっと危なそうな見出しもちらほらあります。何これ、おまじないなのに怖い。
『いつの時代も恋愛沙汰は人を奇行に走らせるものだぴょん』
「何か、ぴょんたんが言うと重いね……。“好きな人に気付かれないように、その人の後ろで「パンダ」と小さな声で3回唱えます”……こんなの効果あるのかな?」
『それ単純に「意識されてなきゃそんな意味不な発言聞いてねーよ、バーカ」ってことじゃないかぴょん』
「身も蓋も無さ過ぎるよ! 試した人のこと考えてあげて!」
『“好きな人の靴に自分の髪の毛を入れ、その靴を履いて3歩歩く”……使用窃盗か横領罪か。どっちにしても一歩間違えたら軽いいじめぴょんね』
「好きな人の物は気になっちゃうよ! た、確かによくないことかもしれないけど乙女心ばっさり切り過ぎだよ!」
 色んなサイトを開いてみますが、心の中で「へぇ~」と思った傍から現実に引き戻されます。千歳以上になると恋なんてしなくなるものなんでしょうか。
『特にこの“好きな人の名前を100回書いて、それを消しゴムで消し、その消しゴムのカスを小瓶にいれてずっと持っている”とか、若干の狂気を感じるぴょん』
「う゛……そ、それは何か、おまじないっていうか、呪いっぽいね……」
『ま、満更、それも間違いではないぴょん』
「え?」
 何か聞き捨てならないようなことを聞いてしまった気がします。ぴょんたんは私の肩から跳び下りて、机の上に着地すると両手でペンを取りました。かりかり。ノートの空白にちょっと歪ですが、ちゃんと読める字で「お呪い」と書かれています。
『元々、おまじないはこのように“お呪い”と書くのぴょん。願かけされるのが好意か悪意かというだけで、強い念や想いで他人に影響を与えるという点では、おまじないも呪いも大差ないのぴょん』
「え? じゃあ、おまじないって本当に効果があったりするの?」
『一概にまったく無意味、とは言い切れんぴょん。現代日本で呪いと言えば丑の刻参りが有名ぴょんが、あれに使う藁人形には相手の髪や爪、写真や名前を書いた紙なんかが使われるぴょん。おまじないも似たような道具を使うことが多いぴょん?』
「そういえば……これも名前や髪の毛だもんね」
『要するに大昔に研究されていた呪術の一環が、断片的に伝言ゲームで伝わって呪いやらおまじないやらになって残ってるってことなんだぴょん。もちろん、そんな手順も作法もないおまじないが成功する確率は宝くじが当たる確率くらいだとは思うぴょんが』
 宝くじが当たる確率って、どれくらいかは知らないけれど、それって当たる人もいるってことだ。考えてみればそういうことが起こってしまった場合に、私が目指す陰陽師や退魔師という役職の人たちが今でも残っているんだった。うん、ちょっと反省しなきゃ。おまじないだって呪術のひとつなんだ。
「そっか。なら、私はぴょんたんに見つかって正解だったのかな」
『経験上、そんな程度のものが大事になるとは思わないぴょんが、妙なものには手を出さないのが正解だぴょん。沙音みたいに「たかがおまじないだし、ちょっとくらいならいいよね」と軽く考えて実行するのは、「どーせこの世に幽霊なんているわけねーじゃん」とか粋がって心霊スポット巡りするヒマなDQNみたいなもんだぴょん
「遠回しにバカって言われた気がする!」
『何にせよ、沙音は自分が微妙にそこそこ強い霊能力者だってことを自覚した方がいいぴょん。微妙に』
「何で微妙って2回も言ったの!?」
『じゃないとこの話が小学生萌えのギャグから一気に昼ドラへの究極進化を』
「しないよ!」
 ぴょんたんへの抗議を込めてばたんっ、とノートを閉じた途端に消しゴムがころころ転がってしまいました。慌てて拾いに行こうとすると、開けっ放しの障子を越えて廊下に飛び出した消しゴムは足袋を履いた誰かの足元へ。いけない、と思って顔を上げると、
「『あ』」
 ぴしっ、と世界が固まりました。というか、私が固まりました。
「沙音? どうした? この消しゴムはお前のか?」
 少し節くれだったしなやかな手がひょい、と私の消しゴムを拾ってくれます。いつも通りの優しい低い声が私を呼んでくれますが、それどころではありません。
「た、龍浩さ……」
「沙音?」
「は、う、あ……ご、」
「はうあ? ご?」
「ご、……ごめんなさああああああああいっ!!」
 私の目を覗き込んでくるきりりとした眼差しに耐え切れなくて、逃げました。それはもう全力で。あああ、どうしよう。知らないフリでふつうに受け取ってしまえば良かったんだ! 絶対、変に思われた! っていうかバレちゃった! 私、明日からどうやって生きていけばいいのーっ!!


『ありゃー……』
 ウサギは主の胸中とは打って変わった平静さで、いつになく俊敏に廊下の向こうに消えた沙音の背中を見送った。その隣で沙音の奇行に首を傾げていた龍浩がふと、手の中の消しゴムに目を落とす。
「……? おい、ウサギ」
『あ?』
「これは何だ? 何かの暗号か?」
 怪訝そうに問いかけられて、ウサギも一緒に首を捻る。はて。沙音の言うことが本当なら、そこには男の名前が書かれているものだとばかり思っていたが。そう思って男の手の中を覗き込むと、二段に分けて書かれていたのであろう「しのぎ たつひろ」の文字が、三分の一ほど使われたために「ぎ こつひ」(おそらく「ろ」は握り過ぎて掠れたと思われる)になっていた。
『あー……』
 真剣に意味を解そうとする龍浩を尻目にウサギはそんな間延びした声を漏らしたのだった。

                                                                               続く!


【次回予告】
「ぴょんたんて、謎が多いウサギさんだよね」
『1話めの次回予告のネタを未だに引っ張ってくるとは、意外と粘着ねちゃねちゃねるねるねるねだぴょん』
「ちょっと聞いただけで粘着って何!? それにそのお菓子、若い人には通じないよ!」
『そもそも魔法少女系のマスコットなんてろくに活用しないくせに羽が生えてたり、どーやって浮いてるんだか分からないアクセサリーをつけてたり、ぶっちゃけ主人公よりお前が戦った方が強いだろってヤツだったり、正直意味不明生物だぴょん』
「何かいろいろ危ないよそれ以上は駄目だよぴょんたん!」
『次回、「みならいおんみょーじ、しごとする」。読んだ人にはもれなく1億円のチャンスがあったらいいぴょんね』
「適当!!」

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気になるあいつ〜

しゃのちゃがひろりんに会うたびに「はにゃーん」となるたびに、「いやそいつ香月さんの魔法で雪兎さんポジ(笑)を会得しているのであり、冷静に見ればただのクーデレこじらせ太郎なんだぜ」と諭したくなりますwwwww
しゃのちゃかわゆすです。もう、ほんと可愛い! 蓮くんよく下宿許したなぁ。
もうぴょんたんがぴょんたんで毎度腹筋がつらいです。
健ちゃんはこの裏でブラコンと初恋こじらせてツン中学生になっていると思うと2424
気になるあいつ〜
不思議なあいつ〜
……ぴょん。

ねるねるねるね、お母さんが買ってくれなくて食べたことないです。ぐすん。
気になるあいつww

魔法で雪兎さんポジwwwwひろやん、がんばって良い旦那さんになってね!ww
妹のように可愛がってくれているとのことなので、ひろやんも沙音と接するときは普段よりちょっと優しいのかなと妄想。そしてそれを見て溜め息をつくウサギが1匹なうですww

蓮にとっても実家だし、隣はかのちゃの育った家だし、ぴょんたんがついているので許可した模様です。でも心配な璃っくんはときどき様子を見に来ますw

健ちゃんもどのタイミングで出そうかなと2424。ツン中学生うまうまですぴょん^q^

ねるねるねるね、ぱったり見なくなりました…けして美味しくはないけどねるねるが楽しいお菓子です。
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