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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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【少女はサンタに恋をする】

※こんなサンタさんは嫌です。(作者の本音)
 




【少女はサンタに恋をする】


 12月某日。枕元に見覚えのないおっきな箱が置いてありました。

 季節は冬。瑠那の苗字が変わって、母親と2人ちょっと高そうなマンションの一室で暮らすようになってから、半年余りが過ぎた頃だった。寒さでかじかんだ手を温めながら(本当はエアコンのタイマーをつけて置けばいいのだろうけど、ずっと古いストーブしかない家で暮らしていたので何とも慣れない)、何とかベッドからもぞもぞ這い出して視界に入ってきたのがそれだった。

 少し袖の余るパジャマでまだ眠い目をこすって、改めて枕元に鎮座している不審物を見る。

 つるつるした何だか高そうな白い箱に、綺麗な真っ赤なリボン。大きさはちょうど瑠那の両手に抱えられるくらい。何だろうと首を傾げていると、星のマークが書かれたメッセージカードに気がついた。おそるおそる開いてみると、ちょっと癖のある字で英語が書かれている。まだ英語は習っていないけれど、その文字はここ数日の間、通学路やテレビの中で何度も見ていたから意味は解る。

 ――クリスマス……。

 Merry Christmas。白いカードにはそれだけが素っ気なく書いてあった。

 

 

 クリスマスの思い出、と聞かれたら瑠那が思い出すのは大体が学校や無邪気な幼馴染の笑顔だった。

 ちょっとだけデザートが贅沢な給食。幼稚園で合唱したジングルベル。同じ組の男子たちは、ツリーのてっぺんに飾る星を奪い合っていた。幼馴染に誘われて、彼女の家で一緒にケーキを食べた。幼馴染はサンタクロースへの手紙に、誕生日に買ってもらった“けいたいでんわ”をなくしませんように、と書いていた。七夕の短冊か、と突っ込んだけど次の日にはそのスマートフォンには可愛らしいピンクの花のストラップがついていた。

 つまるところ、瑠那のクリスマスの思い出は家の外の思い出ばっかりだったのだ。

 瑠那の家にはサンタクロースが来ない。ホールのケーキやチキンが並ぶこともなかった。大きなツリーが立てられることもなかった。家族3人で暮らすには狭い2Kのアパートで、唯一の電気ストーブが頑張る中、強面の父親は毎日酒を飲んでいた。クリスマスだってそれは変わらなかった。

 母親は疲れ切った顔で明け方近くに帰って来たと思ったら、父親に飯を作れと命令されて、青白い顔で台所に立っていた。その料理が気に入らないと、父親はすぐに怒鳴った。たくさんお酒を飲んでいる夜は、隣の部屋で毛布にくるまっている瑠那にも手を伸ばして来たけれど、母親は必死で瑠那を毛布ごと抱き締めた。父親はそんな母親の背中を蹴り続けていた。母親からはたくさんの香水が入り混じったへんな匂いがした。

 そんな毎日が嫌で瑠那は毎年、サンタクロースへの手紙にお願いを書いた。優しいお父さんが欲しい、とか。お母さんが楽になるように新しい洗濯機が欲しい、とか。でもサンタクロースは一度だって、そんなプレゼントをくれたことはなかった。そのうち、瑠那はサンタクロースへの手紙なんて書かなくなった。瑠那にとってのクリスマスは、ただの平日になっていった。

 

 

 そんな毎日を送っていた半年前。父親は事故を起こして人を轢いてしまった。パニックになりながらも救急車を呼ぼうとする母親を、父親は殴りつけて“ひきにげ”をしようとした。瑠那はまだ小学生にもなっていなかったけれど、それが悪いことだというのは何となくわかった。だから、殴りつけられた拍子に母親の手から滑り落ちたスマートフォンで救急番号を押した。お母さんがお仕事の間に何かあったらここに電話するのよ、と口酸っぱく教えられていたから、たどたどしくも何とか救急車を呼ぶことができた。

 けれどもその1件でさらに父親は母親につらく当たるようになった。母親の留守中に、救急車を呼んだ瑠那を叩くようになった。頬に1回、背中に3回。大分、消えかかってはいるけれど、まだ少しだけ痕が残っている。

 それを見た母親は瑠那を連れてついにあの狭いアパートを出た。しばらくは親戚の家を転々としていたけれど、長居も出来なかったのだろう。そんな折、不意にこのマンションが瑠那の家になった。

 前のアパートなんかよりもずっと広い3LDK。事故の件で職を失っていた母親も、きちんと朝に出かけて夜には帰ってくる仕事に就いていた。どうしていきなりこんな生活に恵まれたのか、瑠那にはわからなかった。けれど新居に引っ越してからの数日間、母親はどこかに電話をかけては「すいません、本当にありがとうございます」とはらはら泣いていたから、きっと母親を助けてくれる人が見つかったのだろうと安堵した。

 そんなこんなで迎えた新居での初めてのクリスマス。知らない間に置かれたクリスマスプレゼント。喜び勇んでリボンを解いてしまうのが子どもなのだろうけれど、それまでそんなものに遭遇したことがなかった瑠那は困惑した。

 今までサンタクロースはプレゼントなんてくれたことがなかった。それに瑠那はけして良い子ではない。料理をしようと張り切っても指を切ってしまうし、洗濯物を取り込もうとして転んで洗い直しなんてしょっちゅうだし、掃除をしていて食器を割ってしまうのもままあること。だから瑠那の指にはいつも絆創膏だらけである。

 困惑したまま、それでも放って置くことは出来ないので箱を抱えて部屋から出ると、何だかいい匂いがダイニングから漂ってくる。ますます首を傾げながらダイニングを覗くとキッチンに立つ母親の背中が見えた。

「おかあさん……?」

「ああ、起きたのね。おはよう、瑠那ちゃん」

 振り向いた母親の顔は、やっぱり少しだけ疲れていた。けれど半年前の真っ青な顔と比べたら、見違えるように血色も良くなっている。

 くつくつと鳴っている鍋に気がついて、瑠那は箱を抱えたままキッチンに入った。

「おかあさん、おしごとは?」

 学校はもう冬休みだ。けれど、会社はお休みの日ではない。いくら母親に援助してくれる人が出来たからといって、頼りきりになるのはよくない。母親はいつも瑠那が目を覚ます前に家を出て行く。だから今日だって変わらないと思っていたのだ。

 けれど実際に母親はこうして鍋の前に立っている。鍋からは瑠那の大好きなクリームシチューのいい匂いが漂ってきているし、ダイニングのテーブルを見れば大手フライドチキンのクリスマスボックスが乗っかっている。脇には植木鉢くらいの小ささだけど、可愛らしいツリーが飾ってある。

 母親は瑠那に目線を合わせてしゃがむと、微笑んだ。笑った母親の顔を見たのはいつぶりだったっけ。

「今日ね、お母さん、特別にお休みもらったの」

「おやすみ?」

「ええ。会社のえらい人がね、いつも遅くまで頑張ってくれているから、今日は娘さんのためにお休みしなさいって言ってくださったの。だから今日はずっと瑠那ちゃんと一緒にいられるの」

「今日、ずっと」

「ええ、ずっと。だから、一緒にクリスマスをお祝いしたいんだけど……瑠那ちゃんは嫌?」

 瑠那はぶんぶんと首を横に振った。瑠那の不器用は母親譲りで、母親はあまり料理が得意ではない。だからチキンは出来合いだし、シチューのじゃがいもは型崩れして人参は半煮えかもしれない。母親は隠したつもりらしいけれど、クリームシチューのルウのパックがゴミ箱に見えてしまっている。

 でも、あのチキンのクリスマスボックスには瑠那の大好きなビスケットも一緒に入っているだろうし、シチューだってこんな朝早くから時間をかけていたのだろう。星形に切りぬかれた人参の残りがまな板の上にぽろぽろ転がっている。他の人から見たら手抜きと言われるかもしれない。けれど、瑠那はそれがこの人の精いっぱいの愛情だと知っていた。何しろ、瑠那の家では長いことクリスマスなんてやっていなかったのだから。どうにも不慣れなのは、瑠那だって母親だって一緒なのだ。

「……るな、ままといっしょがいい」

 幼稚園で卒業したはずの甘えた呼び方が口から飛び出してしまった。

「ままといっしょにシチューたべたい。チキンも」

 薄っすらと隈のある母親の目に涙が溜まった。ぎゅう、と抱き締められる。母親の白いブラウスからは、もうあの嫌な甘ったるい香水の匂いはしなかった。

 鼻の奥がつん、となった。思わず柔らかい胸にしがみつきそうになったけど、抱えていたものに気がついて慌てて声を上げた。

「ま、まま、プレゼント、つぶれちゃう……」

「あ、ごめんなさいね。本当にごめんなさい……」

 袖で目尻を拭いつつ身体を離してくれた母親に、大きなリボンの箱を見せてみた。

「まま、これ、枕元にあったの。これ……」

「それはね。瑠那ちゃんからサンタさんからのプレゼントよ」

「サンタ、さん?」

「そう。ママと瑠那ちゃんのこのお家とか、今のママのお仕事とか、いろいろお世話してくれたサンタさんから瑠那ちゃんへのプレゼント」

「……開けてもいいの?」

 母親は破顔して「当たり前じゃない」と言った。その笑顔は苦労の所為で少し小じわが出来てしまっているけれど、隈はどんどん薄くなっていっているし、がりがりに痩せていた身体も段々と健康的になってきている。

 綺麗なお家、全自動の洗濯機やチルド室がある冷蔵庫、ちゃんとしたお仕事、特別なお休み。優しいお父さんはくれなかったけれど、そんなにたくさんのプレゼントをもらってしまっていいのだろうか。そんな躊躇いはあったけれども、それでも初めてのプレゼント箱にうずうずしていたのも確かだった。

 そろそろと破いてしまわないようにリボンを解いて、箱を空ける。ふわふわの包装紙の中に包まれていたのは、猫のぬいぐるみだった。ちょうど瑠那の両手で抱き締めてちょうどいい大きさの黒い猫。毛はふわふわで、つぶらな瞳はとても綺麗な赤い宝石のようで、首にベルベットの大きな赤いリボンを巻いている。かわいい。素直にそう思った。

 必死に働いている母親の手前、そんなことは言えなかったけれど、瑠那だって女の子だ。かわいいものは大好きなのだ。特に猫は一番、好きな動物で、こっそり野良猫に給食の余りのパンをあげてしまったことだってある。赤い色も大好きで、幼稚園の折り紙の取り合いで喧嘩してしまったこともある。ぬいぐるみだって欲しかったけど、欲しいなんて言い出せなかった。初めてもらったプレゼントは大好きな猫の、大好きな赤い瞳の、ずっと欲しかったぬいぐるみ。

 サンタクロースは魔法使いなのかもしれない。

「……かわいい」

「気に入った?」

「うん、うれしい!」

 ぎゅ、と抱き締めればふわふわの感触がほっぺたを擽った。もう幼稚園に通う子どもではないけれど、今日くらいは一緒に寝てみてもいいかもしれない。ぬいぐるみと一緒に寝るというのも瑠那の細やかな夢だった。

 とんだ遅刻魔なサンタクロースだったけれど、十分過ぎるほど嬉しかった。

「まま、るな、サンタさんにおてがみ書きたい! お礼のおてがみ!」

 つい興奮してそんなことを言ってしまった。常にない娘の紅潮した頬を見て、母親は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。だが、すぐに瑠那の猫っ毛を撫でてくれた。

「そうね。一緒に書きましょうか。でも、その前に冷めないうちにシチューとチキンを……」

 そう言いかけて、母親の言葉が止まった。血色の良かった顔が、少しだけ青くなって見るからにおどおどと視線を彷徨わせる。

 瑠那はしばらくそんな母親を不思議そうに見ていたが、はた、と思い至った。チキンはある。お手製のシチューもある。ツリーだってある。不器用でちょっぴりおっちょこちょいで、クリスマスなんてイベントに不慣れな母親の失態に気がついて、瑠那は小さく噴き出した。

「まま、るな、ままとホットケーキつくりたい」

 そう言うと、母親は目を丸くして瑠那を見た。そしてほっとしたように、けれど少し複雑そうに笑った。

「瑠那ちゃん、それでいいの? ママ、今から買ってくるけど……」

「ううん。ママと一緒がいい。ママと一緒にホットケーキ作りたい!」

 あれなら簡単だ。専用の粉と卵と牛乳をかき混ぜて、フライパンで焼くだけだから、瑠那にだってお手伝いができる。サンタクロースやトナカイの砂糖菓子もチョコレートのお家もないケーキだけど、甘いメイプルシロップのホットケーキはきっと絶品になるに違いない。根拠? だって今日はクリスマスなんだから!

 

 

 

「サンタクロースっていうか、あしながおじさんだよね。どっちも似合ってないけどwwwww」

「悪人面でサンタクロース気取りとかフィンランドに向けて土下座したらどうだ?」

「お前らのPCマザーコンピュータからぶっ壊す」

「「( ゚×゚)」」

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