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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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華歌残照 参

※第一回リア充爆ぜろ会会場はこちらです。
 つんでれップルによる人生一度の大「べ、別にあんたなんか大好きなんだからねっ!!」大会。
 くっつく直前くらい全部暴露してすっきりしたらいい。君らにムードなんて百年早い。
 ガチリア充注意。




 初めて入るわけではないが、恋仲になってからは初めて夜を過ごす男の部屋で。
 本来ならば、緊張に震えて入るはずの部屋で。
 天良華音が、最初にしたことと言えば、
「ふにゃぁあ~……」
 奇声を上げて褥の上に倒れ込むことだった。頬は上気しているが、この場合は逆上せたとか、羞恥したとかよりも、目を回したと言った方が正しい。
 いや、彼女は悪くない。けして悪くはないのだが、先程からこめかみに走るこの頭痛は一体、何だろう。
 兎にも角にも彼女の回復を待たなければ、満足に話一つ出来ない。水甕に汲んでいた清水を棚に置いていた切子硝子に注いでやると、彼女は心許ない動作でふらふらと受け取った。
「ありがとう……。でも、師匠たち、浮かれ過ぎよ……」
「……悪いな」
 “彼女”が降りた後は嫌が応にも調子が付かないというのに、家に連れ帰った華音に待っていたのは養家夫婦と義理の兄の熱烈な歓迎だった。代わる代わるに彼女を抱き締めては、息子をよろしくね、と繰り返す。それだけならまだいいのだが、蓮と華音両方の師匠でもある養父と義兄は、「ますます大きくなったな!」と要らない類の言葉を要らない意味でかける。
 瞬間沸騰をして何も言えなくなった華音に、即座に2人へ養母の制裁が入ったのは言うまでもない。
 もっとも、その養母にも夕餉の片付けを手伝う傍らで、「きちんと優しく扱こうてあげるんよ」としっかり釘を刺されてしまった。
 冷水を一杯、飲み干して、漸く人心地がついたのか、弱々しく笑って身を起こす。
 湯殿に浸からせる前に逆上せてどうする、と思う手前、奥手に育て過ぎた自覚もある。買い物に出た先の八百屋の女将に「おめでとう」と言われただけで、真っ赤になって声を上ずらせる体では、確かにあの猛攻は耐え難い。
「はは……でも、良かった」
「?」
「少し、怖かったのよ。反対されたりしないかな、って……」
「それはないと思うが」
 正直、報告をしたときさえ辟易した。義兄など、咽び泣きながらしがみついて来たものだから、うっかりいつもの手を出してしまった。まあ、それで凹んだことはないので良しとする。
 しかし、華音はほんの少しだけ肩を竦めて、ふるふると首を振る。
「思うわよ。師匠も、有栖兄さんも、本当に蓮のこと好きだもの。彼葉さんだって、今日の夕餉、蓮の好きなものばっかりだったわよ」
「……」
 養母は必ず、家族の好きなものを代わる代わるに出す。その順序に自分の好物が加わったのは、養子として貰われて幾らもしない時期だった。それは実子である義理の兄を差し置いて、軍内で位を頂戴した時節を過ぎても変わらなかった。
 この砂領の家は、武鎧蓮を誇ってくれたのだ。
 鷹は称賛を求めない。蔑称こそを誇りとする特例隊だ。その頭と着いた息子を、砂領の家は褒め称え、誇りと掲げてくれた。家人が厭うのならば、長らく暮らしたこの家を出て行く心算で歩んだ道。その道を、この身を、彼らは心から愛してくれたのだ。
「蓮?」
「……いや、何でもない」
 感傷に浸りそうになる頭を引き戻す。未だ、終わっていないのだ。感傷に浸るのは早すぎる。
「……ねえ、あのさ。一つ、聞いてもいい?」
「何だ?」
 華音は両手で茶碗を包んだまま、何故か自信無さげに見上げてくる。聞いていいか、と問いた割には視線が定まらない。何か意地を張っているときの表情だった。
 辛抱強く待ってみると、彼女はこくり、と一度喉を鳴らしてから口を開いた。
「……私なんかで、本当にいいの?」
 ――……。
「あの、その……ええと、今さらだっていうのは、分かるよ? でも……」
 こちらの顔色が変わったことを懸念したのか、華音は取り繕うように言葉を探す。だが、蓮にはそんな彼女自身を卑下する言葉など聞いていなかった。
 体の温度が冷えていく。唇は渇いていく。首から下は徐々に冷えていくのに、顔と頭の中には蝋燭の炎のように暗い熱が這いずり始めた。
「……それを言うか」
「へ? わっ、ひゃっ」
 知らず、腕が伸びていた。手首を捕えられた華音の手から、茶碗が滑り落ちる。僅かに残っていた清水の滴が、褥の上に斑紋を描いた。
「ちょっと、蓮……っ!」
 抗議を上げるよりも先に、華音の腕は褥の上に縫い付けられていた。背中の下は棉の感触。至近距離で顔を覗き込むのは、腕を掴んだ男の至極不機嫌な顔だった。
「……14年前から懸想し続けて、当人の家族に『手を出すな』と先手を打たれて、堪え続ける代わりにお前を他の男の手から守り続けるのに必死を貫いた男の前で、それを言うか」
「ふぇ……?」
「お前は何一つ解っていない」
 舌打ちを飲み込んで頭を振る。熱い。随分と前から頭の芯を襲い、肌を泡立たせていた奇妙な熱は、ちくちくと遠慮なく理性を啄んでいく。口の端に並んだ言葉は、普段なら絶対にしないような暴言だった。
「お前でなければ誰がここまで悩むか。華林祖母様に『お前を傍に置き、天良を敵に回したくないなら、絶対に手は出すな』と宣言されて俺がどんな気分だったか解るか? それまででも4年だぞ。気が遠くなりかけた。それだけでも気が狂いそうだというのに、俺がお前の見合いだの婚約相手だので何度あの人に意見を求められたか知っているか? お前がいなくなったときに、俺がどれだけいっそのこと無理矢理にでも貰い受けて置けば良かったと後悔したか知っているか」
 目の前の碧い2つの目がこれでもか、という程に見開かれた。未だ子供のような愛らしさを残す顔が、初耳と叫んでいる。ああ、そうだろうとも。一度として口に出したことなんてないからな。
「だが、出来なかった。何故だか解るか。無論、鷹の為でも海神の為でもあった。天良を敵に回したくなかったのもある。けれど、それは些細な事だ。そんなことで海神は揺らがない。鷹は俺が何とでもしてみせる。……お前だ、華音。お前に華林祖母様や義姉上を裏切るような真似をさせたくなかった。祖母様や義姉上がどれだけお前を可愛がっていたか俺は知っている。お前が幸いに笑っているなら、俺はそれで良かったはずなんだ。なのに、称賛を受けないと解っている道にお前を歩ませられるか」
 握っていた彼女の手がびくり、と震えた。大きな目がふらふらと泳ぐ。少しだけ、泣きそうに歪んだ。そういうことじゃない。そういうことを言うつもりじゃあない。
 必要ならば嘘も吐く口に育ててきたはずなのに、どうしてこういうときだけ上手く回らない。
 早く早く、吐露してしまえ。泣いた顔を見たいわけじゃあないんだ。
「……それでも出来なかったんだ。手を離すことすら出来なかった。お前が俺の世話を焼く度、祖母様の言う通りに祝言を迎えれば他の男にそうするのかと嫉妬に駆られたさ。許せなかった。だから俺は、14年間もお前の傍を離れられなかったんだ。お前はその俺に今、それを言うのか?」
 数度、瞬かれた目が、呆然と見開かれた。桜色の唇がはくはくと2、3度開いて閉じる。数瞬の間があって、今度は頬がふつふつと赤く染まり、小さく眉が吊り上る。
 本能的に悟る。まずい、逆上したな。
「あ……あたしだって……っ」
 ここまで来て暴れて逃げられても困る。痛みは覚えないように、だが離しはしないように、握った手に力を込めた、そのときだ。
「そりゃ、鈍かったし、そんなこと知らなかったけど……っ、でも言ってくれないとわかんないわよ! こんな場所で怒らせるくらいには鈍いんだから! でも鈍くても、寂しいものは寂しかったの! 2年も何で結婚しなかったのか考えて、好きな人がいるんじゃないかって考えて、じゃあ誰だろうって考えて……。北様貰ったら看病するのも、夕餉作るのも、お弁当用意するのも北様の仕事だし、あたしの送り迎えなんてしてる暇なくなるだろうし、せっかく覚えた料理も食べて貰えないだろうし、って考えて寂しかったの!」
「……」
「そんなの思わないもん! あたし、天良の姫兵だし、伽羅との混血だし、現人神は抱えてるし、鈍いし花嫁修業してないし色気もないし肌だって傷だらけだし、蓮の北様決まったら土下座しないとって思ってたくらい相棒に傷ばっかり作っちゃったし! そんなの自分だなんて思わないもん! 女のあたしが周りうろちょろしてる所為で結婚出来ないのかな、って本気で思ってたもん! うろちょろやめなきゃって思ってたもん! でも、出来なくて情けなくて……」
 おそらく自分が何を吐露しているか解っていないだろう。天良の姫兵、伽羅との混血、現人神、亡くなった家族まで。彼女が抱えた引け目は、すべて知っていた心算だった。だが、そうではなかったようだ。鈍いのも色気がないのも今の今まで男など意識していなかった所為だろうに。男を意識しないのに花嫁修業などやるわけがない。初めて意識された男が自分だったなんて、今時、草子でも流行らない話だ。
 馬鹿か、お前は。自分の隊を背負って戦ってくれた傷を貶す男がどこにいる。惚れた女を守って付いた傷を厭う馬鹿がどこにいる。
「蓮は初めてあたしのこと気味悪がらなかったもの……。傷つけちゃったのに、大怪我させちゃったのに、ずっとあたしの傍にいてくれたもん……。母さんのこと知ったときも、父さんのことがあったときも、ずっとずっとここに帰って来いって言ってくれたもん……そんなの、そんなの、今さら離れたり出来ないよぅ……!」
 ひとしきり言い終えた後に気が付くと、お互いに軽く息を切らせていた。休みなく身体を動かしていても平気なように修練しているのに、可笑しいものだった。
 少しだけ深く息を吐いて、呼吸を整えて。はたり、とまた視線が合う。碧い瞳は逡巡に揺れていた。言う心算のないことを言ってしまった、と語っている目だった。
 ――阿呆か、俺たちは。
 張りつめた糸が切れる音を聞いた。すとん、と腹に溜飲が下がってくる。どれだけ遠回りをすれば気が済むのか。気が付けば、小さく声を出して笑っていた。
「蓮……?」
「……いや」
「えっと、ひゃ……っ!」
 何事か言いかける彼女を抱き上げた。一般の女性よりも鍛え上げているはずが、まだまだ軽い。そのまま居場所を変えて、今度は仰向けに自分が横たわる。
 ぽすり、と腹の上に収まった華音は「何するの」と不服そうに小さく暴れて来た。負けず嫌いな彼女は、押し倒されたことよりも、軽々と持ち上げられたことの方が不服らしい。そういうところが色気がない、と言われる原因だろうに。
 でも、それでいい。他の男が寄りつくような色気なら、別に無くて構わない。

 結局、俺は天良華音であったなら、傷があろうが、混血だろうが、現人神だろうが、鈍かろうが色気が無かろうが肌がどうだろうが、そのすべてが愛おしかった。

 一度だけそう囁いてやったら、さらにじたばたと腹の上で暴れた。「馬鹿、阿呆、ふざけるな、信じらんない!」と散々な言われようだったが、緩んだ顔を真っ赤にしていては照れ隠しだと絶叫しているようなものである。
「この……っ、馬鹿力……っ!」
 細やかな抵抗を抑え込んでやっていると、さすがに疲れて来たらしい。上気した顔で唇を尖らせて睨んでくる。やや汗を掻いた金色の頭を撫でてやると、やっと少し大人しくなる。
「華音」
「……何?」
「……こひこひて まれにこよひぞ 相坂(あふさか)の ゆふつけ鳥は なかずもあらなむ」
 変な声が漏れた。彼女が半開きにした口から漏らした呻き声である。うう、と恨めしそうに赤い顔で睨んでくるのは、返歌が苦手な所為なのか。それとも思いついてて口に出来ないのか。
 しばらく腕の中でふるふると震えた後、彼女はたっぷりと時間をかけて悩んだ歌をようやく口にする。
「……しののめの 別れををしみ 華ぞまづ 鳥よりさきに 咲きこいねがう」
 ぼそぼそと呟くように、自信なく告げられた歌。真っ赤になってしどろもどろに告げられた、けして流暢に読まれたとは言えないその歌が、今は愛らしくて仕方がない。
 口にした後に様々な意味で恥ずかしくなったのだろう。歌は苦手なのよ、と喚きながらまたばたばたと暴れ出してしまった。
「悪かった。落ち着け」
「ううう……」
「華音」
 胸板に項垂れる彼女の頬に触れ、腰を抱き寄せて、ほんの少し上体を起こして。恨めしげに半開きになっていた小さな口を静かに塞ぐ。ひくり、と見た目より華奢な肩が跳ねた。回していた手に、跳ねた背中の緊張が伝わってくる。
 男のそれよりも遥かに柔らかな花弁を食むと、ひくりと怯えて引き締まる。ゆっくりと、背中を撫でてやると少しは解けたらしい。強張っていた身体の体重が、腹の上に落ちて来た。
 触れるだけのそれを済ませて、一度、身体を離す。彼女は俯いたままもぞもぞと唇を動かしていた。正直、この体制というだけでも拷問に等しいので、早めに決心してくれると助かるのだが。
 やがてこくり、と小さく喉が鳴った。
「あの、その……」
「何だ?」
「あ、あたし、あ、当たり前だけど、初めてだから……そのいろいろ、分からなくて面倒かもしれないけど、その……」
 きゅ、と唇を引き締めてやっと真っ直ぐこちらを見る。どちらかというと場違いな熱が目に灯っている。ああ、これはと思う前に来た。
「い、痛くても我慢するから、遠慮しなくていいから!」
 こいつは先刻、あれだけ告白を撒き散らした男に何を言っているか、解っているのだろうか。
 兎にも角にも、肝心な場所を解す前に握り締めた拳と、緊張に引き締めた唇から解してやるのが先なようだ。幸い、ゆふつけ鳥が鳴くまでは、まだまだある。やたらと長い気になって、蓮は強張った拳を大きな手で包んでやりながら、最後に問う。
「……いいか?」
 短く言った是非に、彼女はくしゃりと強張った顔のまま、だがしっかりと頷いた。








「こひこひて まれにこよひぞ 相坂(あふさか)の ゆふつけ鳥は なかずもあらなむ」/古今集:巻13 恋三 0634 読人不知

 ――長い間恋い続けて、やっと今夜逢うことが出来る。逢坂の木綿つけ鳥(鶏)は、夜が明けることがないように、いつまでも鳴かないでいてほしい――


「しののめの 別れををしみ 華をまづ 鳥よりさきに 咲きこいねがう」/古今集:巻13 恋三 0640 寵 もじり
 
 ――明け方の後朝の別れが惜しいので、華(私)をまず、夜明けを告げる鶏よりも先に咲かせてください――


 

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百年早い噴いたwww

一番初めに思ったこと。
「蓮くんがすごい喋っている…」こら。
愛を語る蓮くんが素敵です。風雅ズやら兄上がいろいろ言ってごめんね(´・ω・`)
もう我慢しなくてよいので、どうぞ、存分にかのちゃを幸せにしてください。
百年早いんじゃぁああ(゜д゜)

レベル中学生のひよっこがムード作りなんて百年早い(笑)。彼は華音の前ではそんな余裕なんてないです。

一生に一度くらい、切々と愛を語っても罰は当たらない。いっぱい言えたのはみんなのおかげです^^
存分に幸せにしなさい、というかしろ(命令形)。
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