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汝、鷹の爪を継がんとせし人ならば、真に刻んだ志を示せ。 汝、鷹の羽を宿さんとせし人ならば、誠に猛る理想を示せ。 証明せよ。汝、雛鳥に非ず。頂上たる蒼穹を翔べ。
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【僕らにとって前世とは、

必要不可欠な絆であって、後生大事にしておきたいもので、捨てようと思っても手放し難くて、でもきっとそんな程度のものでしかない】

※高校1年冬、れーくんと蓮が大河見ながら鍋食ってるだけ。



 日曜日、午後8時。2Kベランダ南向き、1部屋8畳の僕らの部屋は、少し遅めの夕飯を迎える。
 大方の寮生は2部屋を互いの私室にしているけれど、雑魚寝くらい上等な僕らは一室にベッドを2つ押し込んで、キッチンに近いもう1部屋をリビング兼ダイニングのように使っている。1人になりたいときは自然と外に行くので問題は特にない。
 パーソナルスペースというものは確かに大事だけれど、僕も蓮も本気で見られたくないものはお互いに見ない。約束をしたわけでもないのに、そんな秩序が守られているのはひとえに前世でどえらい隠し事をしていた同士の後遺症みたいなものなのだろうか。僕相手でなければ、彼はもう少しあけすけでオープンなのかも、と考えると寂しいような、逆に心地良いような。
 まあ、そんな話はさて置いて。
 今晩は豆乳の豚しゃぶ鍋をメインに、蕪の白だし、浅漬け、極めつけには新米の混ぜご飯を戴いています。東鬼家の皆さん、ごめんなさい。とても美味しいです。
 弁解を挿むと僕だって炊事がからっきしというわけじゃないし、まったくやってないわけじゃない。おやつのじゃがバターからポテトサラダに進化させたじゃが芋を、最終的にコロッケまで最終変化させたり出来ないだけで。
 そんな和洋中が割とバランスよく並ぶ、やたら充実した高校生の食卓だけれども、週に1回、この日だけは和食率が高い。そのことに当人が気づいているかは知らない。僕は気づいている上で、あえてカシスの部屋には行かないし、呼ぶこともしない。結果的にハブっているようだけれど、まあ、あいつは僕らにハブにされたとか考える人種じゃないから。
 まろやかで芳しい豆乳の中に、水菜を挟んだ豚肉をくぐらせる。ポン酢はほんの少しだけ。水菜のしゃきっとした感触とバラ肉の肉汁を噛み締めていると、チャンネルを合わせていたテレビから荘厳な音楽が流れ出した。ちらり、とルームメイトに目をやると、苦いようなくすぐったいような懐かしげなような、喜怒哀楽すべてがない交ぜになった世にも複雑な顔があった。そんな顔をするなら見なきゃいいのに、とは言わない。
 凝った演出の後に力強い直筆フォントで登場した番組タイトルは“真冬の鷹”。某国内最大大手テレビ局の有名歴史ドラマである。
「今週は何?」
「鷹雛の眼(まなこ)」
 副題を聞いたわけじゃなかったんだけど、まあいいか。混ぜご飯を一口、口に放り込むと歯応えが無くならない程度に擂った胡麻の香ばしさとわかめの磯の香りが広がった。新米の繊細な甘さが殺されてなくてデリシャス。十分、美味しいと評判なのにあきらさんが料理修行に燃えているのは、この子の所為だと思う。
 液晶の中では袖と前身ごろの広い服(蓮曰く、童水干というらしい)の少年主人公が、大事そうに絹布に包まれた赤ん坊の師匠になるだのならないだのと、猛反対を喰らっていた。
「やはりドラマになると大袈裟だな」
「主人公、めっちゃ反対に会ってるけど」
「上覧試合が行われたのは事実だがな。そうして置かないといろいろと面倒だったというだけで、大部分はその場のノリに近かったぞ。実際、あそこまで大事になる予定なんぞなかった」
 海神家次期当主役のイケメン俳優が悪人面で唇を吊り上げながら、意地悪く「観衆の中、せいぜい恥を掻かぬようにな」と吐き捨てている。僕はその俳優を箸で指した。行儀の悪さは身内の御愛嬌。
「実際のところは?」
「別に特には。……ああ、そういえば『しまった、義父上と師弟のままになる。何てことだ』と言って大将を泣かせていた」
「君たち兄弟は6月の第3日曜日に孝行して然るべきだと思う」
 彼は僕の指摘にも至極涼しい顔で、湯呑の玄米茶(単に緑茶とかでないところがまた細かい)を啜りながら言う。
「あの人の片腕だった青玻さまが直々に刀を振るった記録があるはずだからな。こう解釈されても確かにおかしくはない」
「あ、あきらさんがおむすび持って来た」
「ねぇよ。どこのニギヤハミ○ハクヌシだ」
「何、別作品のネタバレ的なツッコミしてるの!? しかもよくすらっと出て来たね!?」
 テレビの中は、“仕合に向けて修練に励む幼馴染に手作りの握り飯を差し入れる健気な少女”という何とも微笑ましい絵面になっていた。全国のお茶の間は和やか応援ムードなのだろう。見てる本人、超冷めてるけど。
「先週、相合傘してたよね。初恋は叶わない的演出なのかな」
「実家にいなくて良かった」
「だろうね」
 僕だったら絶対、胃もたれする。蒼牙くんが犠牲になっていなきゃいいけど。
「でもさぁ、最近、君ん家の分家が海神龍彦に関する蔵書見つけたんじゃなかったっけ? どっかの有名大学が四苦八苦してる、ってニュースでやってた」
「正確には日記な。まあ、シナリオ書かれてた時期は俺や蒼牙の日記と、その他の残存文書の記述が違い過ぎてキャラクターが迷子状態だったらしいぞ。来週は『此の度は大姫との御成婚、心よりお祝い申し上げます』だろ。最近、大河の幼年期って端折るからな」
「日本の顔役者自身が身も蓋もなさすぎる! もっと別の感想は!?」
「義兄上はあんなに背高くない」
「……本当、実家で見てなくて良かったよね!?」
 所詮は他人が想像という名の妄想を膨らませて、これまた赤の他人が独自の解釈で役柄を演じているに過ぎないのだから、そんなものなのかもしれないが。お昼のグラサン掛けたおじさんが司会を務めるテレフォン〇ョッキン〇に、売り出し中だという晶姫役の子役が登場して「幼馴染に惹かれつつも、家の為に凛と胸を張る女性をイメージしました(`・ω・´)キリッ」とかやってた日は2人してお茶で咽たし。
「でもさ、大河で良かったよねぇ。何かまだかゆくなさそう」
「蒼牙なんか未だに筋金入りの日本史嫌いだからな」
「舞台化するってね、流花物語。聖地巡礼絵馬とか流行り出しそう」
「さあ。あそこはもう縁結びの名所になっているから、既にあるんじゃないか?」
 ぐだぐだと話しながら平らげてしまった鍋に、にがりを落とす。くるくるお玉でかき混ぜると、即席の朧豆腐がぷかぷか浮かんでくる。出汁醤油をたらりとかけてレンゲで一掬い。うーん、温まる。
 テレビの中は切迫した(と言っても無駄に鍛えられた僕らの目にはお遊戯にしか見えないのだけど)チャンバラ音だが、現実はガスコンロのとろ火とこぽこぽ鍋が煮え立つ音だ。こんな瞬間だけ、僕らは少し世界から乖離する。他人にとってはフィクションと現実、僕らにとっては2つの現実が入り混じっている。
「蒼牙くんたち、元気?」
「平和すぎて物足りないそうだ」
「ああ、そうかもねぇ」
 現代の武術師範では手に負えないという彼らのことだ。現代でもとても歯応えのある蓮の帰省を心待ちにしていることだろう。
 ちょっとだけ、羨ましくないと言えばそれは嘘だ。一度だけ、蓮の実家に誘われたことはあるけれど、丁重に辞退した。今でも帰り道にチャンバラごっこをしてから帰宅するという彼らのその姿勢は、僕にはかつてその力で何かを守っていた思い出の証のように見える。僕はもう何があっても槍を握るつもりはない。握ればまた何かを壊してしまうような気がした。結局、あの時代でも大切なものを守れたのは凶悪な刃物ではなく、体温を取り戻した両手だったのだから。
 悩みを抱える彼らにこんなことを言ったら、恐縮させてしまうのは分かっているから、言う予定はないけれど。
 だからまだほんの少しだけ、僕の存在は“蓮兄のルームメイト”である。
「他人事のように言うが、俺にはお前の方が酔狂に見えるぞ」
 僕と同じく行儀悪く蓮が箸で指したのは、液晶テレビの前に鎮座しているPS3とやりかけのRPGと格闘ゲームだった。どちらもラスボスの名前はロレンツィアで、7体の悪魔を使役していたり、千里まで見通せる片眼を持っていたり、時空や運命を操っていたり、勇者を倒したり逆に助けたり忙しい。
「いやぁ、人間の考えることって面白いな、ってつい」
「神になったり、魔王になったり、女になったり忙しいな」
「本物はここでのんびりデザート食べてるのにね」
 世の勇者たちは今もせっせと僕のかつての名前をした何かと戦って、世界を救っていることだろう。めでたし、めでたし。常闇の冥王はぬくぬくと炬燵で白玉の浮いたフルーツポンチを食しているから、ぜひ、頑張ってくれたまえ。以上。
「あ、終わったよ」
 やり遂げた顔で赤ん坊を抱き上げる主人公と、嬉し涙を浮かべる海神の大姫と、最後に絹の衣を纏った線の細い子役のカットインが入って幕が下りる。予告が流れ出す頃に、およそ3人前あった器の中身がすべて空になるのも週末のお約束。
 暗くなった画面を見つめていると、やがて一瞬のうちに暗闇が燃え上がった。そのすぐ後に茫然とした主人公のアップが映る。
 食器を重ねながら、またちらりと隣を覗き見るけれど、彼は懐かしそうに目を細めただけだった。

 

「蓮、双〇無双の続きやろう! あのステージ、1人じゃコンプ無理!」
「構わないが、お前、持ちキャラ自分にしろよ。せっかく難関ロック開放して使えるようにしたのに」
「えー、アレ無双ゲージの燃費悪いからヤダ」
「お前らしいだろ」

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鍋描写によだれ

れーくんが、れーくんが鍋つついてる///
平穏なシチュの中、テレビの内容だけが異彩を放っているちぐはぐ感、とても伝わりました。
たつやん悪役まじm9(^Д^)wwwww
NARUTO映画で爆笑してる間にふたつも更新されててクリスマスプレゼント!?と喜んじゃいました(*´∀`*)きゃっほう❤️
がーちゃは蛇に睨まれたカエル状態で実家にいますwwwww
鍋がんばりました!

如何に鍋を美味しそうに見せるかに全力を注ぎました!(`・ω・´)←
偽たつやんはもうちょっと柔らかく書いていたのですが、先日のチャットで吹っ切れてやれるところまでやってみました。すまぬ、たつやん。
がーちゃ、胃もたれしないでねwwww

もう1つの方はもにょもにょっとした死ネタ前提なので、何か気がかりがあれば遠慮なく言ってくださいましー。
イメージ壊れるようでしたら、全然下げたりもしますので^^
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